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NSA Cybersecurity Director Rob Joyce to retire, agency says
 The Record, February 21, 2024

➡米国家安全保障局(NSA)は20日、同局サイバーセキュリティ部長を務めているロブ・ジョイス(Rob Joyce)氏が3月末で退任すると発表した。
➡ジョイス氏はNSAで34年間、勤務し、2021年からNSAのサイバーセキュリティ部門のトップに就いた。以後、官民を挙げてデジタル攻撃からの防衛に向けたイニシアチブをとり続けてきた。
➡秘密主義を歴史的に通してきたNSAにおいて、ジョイス氏は広く知られた人物であり、カンファレンスに参加して講演を行なうこともしばしばだった。また、脆弱性開示イニシアチブを主導し、重要インフラを保護するために民間セクターとの協力を推進してきた。
➡先日、新しくNSA長官に就任したティモシー・ハウ(Timothy Haugh)氏は、今回の退任に関してコメントを発表し、「ロブはNSAの重要なサイバーセキュリティ対策において模範的なリーダーシップを示してきた。……彼のビジョン、そしてサイバーセキュリティ部門チームとその能力を発展させてきたことによって、NSAのサイバーセキュリティ対策は健全なものになっているし、将来にわたって同盟国と国家システムの保護を保ち続けるだろう」と評価した。
➡ジョイス氏の退任は、サイバー司令部、およびNSAのトップだったポール・ナカソネ(Paul Nakasone)陸軍大将の退任に続くものである。ジョイス氏は、2023年にNSA副長官を退任したジョージ・バーンズ(George Barnes)の後任候補だったが、最終的には同じくNSAのベテラン職員であるウェンディ・ノーブル(Wendy Noble)が就任した。

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The Age of Intelligence Diplomacy
 by Brett M. Holmgren (U.S. assistant secretary of state for intelligence and research)
 Foreign Policy, February 19, 2024

➡2022年2月、ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を準備するなか、米国はロシアの計画についてウクライナと世界に警告を与えるため、戦略的な見地から情報を機密解除したり、その機密度を下げるなどしていた。2月22日、いよいよ侵攻が始まろうとしていたとき、国務省では新たな脅威情報をただちにウクライナと共有することが必要だとの認識に達した。
➡偶然にも、ウクライナのドミトロ・クレバ(Dmytro Kuleba)外相がアントニー・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官との会談の後、国務省のビルに来ていた。そこでブリンケン国務長官、ジェイク・サリバン(Jake Sullivan)大統領補佐官、アヴリル・ヘインズ(Avril Haines)国家情報長官は、情報機関と協力してウクライナと共有できる情報を明確にするように指示を出した。そして、許可を得た上でクレバ外相に情報を伝えた。同外相は絶望的な表情を浮かべながら、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領に電話し、戦争準備に取り掛かることを進言した。
➡結局、ロシアの計画を事前に明らかにしても、戦争を避けることはできなかった。だが、米国の情報開示はウクライナの自衛を可能にし、同盟国やパートナーを動員してウクライナを支援させ、国民の目にはロシアの偽情報が移り、世界の目には米国の情報機関、そして米国の信頼性が回復した。イラク戦争がインテリジェンス外交のリスクを浮き彫りにしたとすれば、ロシアのウクライナ戦争はそれを取り戻すチャンスになったのである。
➡米国はつねに、脅威に関する情報を同盟国と共有してきた。インテリジェンスは長い間、米国の外交官にとって貴重なカードだった。だが、ロシアのウクライナ侵攻は、米国の外交に対するインテリジェンス支援の規模、範囲、スピードの著しい進化を象徴するものだった。それはまた、米国の国家安全保障上の利益を支援するために情報活動を行なう情報コミュニティ(intelligence community)の世界的な信頼性の転換点でもあった。
➡ロシアのウクライナ侵攻に対する米国とその同盟国の対応を可能にする上で、情報開示が中心的な役割を果たした。情報開示のおかげで、米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ(William Burns)長官は2021年11月、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に対して、米国はウクライナにおけるロシアの意図を把握しており、断固とした対応をとるだろうと警告を与えることができた。また、ロシアの計画についてウクライナの人びとや世界に知らしめることができた。そのような情報開示の一連として、ロシアがウクライナ侵攻を正当化するために、いわゆる「偽旗(false-flag)」で残虐行為をでっち上げるかもしれないという米国の情報があった。
➡ロシアの陰謀を暴くという情報機関の正確さと成果を鑑み、政府、メディア、一般市民の多くは、情報開示が他の世界的な紛争や課題における外交ツールとして使われる可能性があることを示唆している。
➡「インテリジェンス外交」の一般的な定義は存在しない。それは、同盟国との伝統的な情報共有という狭い意味で捉えられることもあるし、パブリック・ディプロマシーを強化するための手段、あるいは、プレス・リリースをはじめとした政府高官の発言に注目を集めるための手段として受け止められることもある。国務省では、インテリジェンス外交を「外交活動やパブリック・ディプロマシ―を支援するためにインテリジェンスを活用することであり、米国の外交目的を推進し、同盟国に情報を提供することによって関係を構築し、協力を推進し、アプローチや見解を合わせ、条約を確認し合うためのもの」として定義している。
➡戦略的かつ責任をもってインテリジェンスが使用されれば、機密度の格下げ、また、機密解除された情報は、米国の外交政策を力強く後押しすることができる。たとえば、1962年10月、米国は国連安保理に機密解除された情報を提出し、キューバにソ連の攻撃ミサイルが配備されていることを明らかにした。また、2017年4月、米国はシリアへの攻撃に向けて国際的な支持を集めるため、シリア国内での化学兵器使用に関する情報の機密指定を解除した。
➡だが、適切な保護措置や監視がなければ、インテリジェンス外交は国家安全保障へのリスクを高め、同盟国との信頼を損ない、米国の利益を損なうようなかたちで使われることもある。もっとも悪名高いのは、2003年にイラク侵攻を始める前、米国はイラクが大量破壊兵器を保有していることを主張するために機密情報を公開したことである。この情報は不正確なものであることが判明し、情報コミュニティは一世代にわたって世界的な評判を落とした。
➡情報コミュニティと政策立案者にとって、このような誤用や濫用を防ぎながら、インテリジェンス外交のメリットを最大化することが課題になる。インテリジェンス外交の将来を考えるとき、イラクの教訓をけっして忘れるべきではない。同時に、ロシアの本格的なウクライナ侵攻に対する米国の対応について、なぜインテリジェンス外交があれほど成功したのかを大まかに見ておくことは価値があるだろう。
➡第一の理由は、ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領の断固たるリーダーシップが挙げられる。2021年後半、ロシアが軍を動員し、明らかにウクライナへの侵攻が近いという評価を情報コミュニティが下したとき、バイデン大統領はロシアの計画と意図に関する情報の機密度を格下げするように指示した。ウクライナをはじめ、米国の同盟国や友好国、そして一般市民が、米国の見ているものを正確に理解できるようにするためである。
➡第二の理由は、米国の政策意図は原則的、かつ明確だったことである。サリバン大統領補佐官は2022年初頭、「イラク情勢では戦争を始めるために情報が利用された。我々は戦争を止め、戦争を防ぎ、戦争を回避しようとしている」と記者会見で述べた。ブリンケン国務長官は、ロシアが侵攻する数日前、国連安保理で同じメッセージを発した。
➡第三の理由は、ロシアとウクライナに関する米国のインテリジェンスは、具体的で一貫性があり、正確だったことである。情報コミュニティの分析官は、ロシアの活動や意図について収集した情報の信頼性と確実性に大きな自信を持っていた。
➡第四の理由は、商業画像やソーシャルメディアなど、ロシアンお活動に関する新しいオープンソース・データによって、情報コミュニティは機密性の高い情報収集源や収集方法を危険にさらすことなく、信頼できる情報を格下げしたり、機密扱いを解除したりして、同盟国や友好国、一般市民と共有することができた。
➡ブリンケン国務長官のリーダーシップのもと、国務省はインテリジェンスを外交に一層、活用するために、集中的かつ計画的なアプローチをとってきた。その際、国務省は情報機関と緊密に連携してきた。大使から次官、副長官、そしてブリンケン国務長官に至るまで、国務省の多くの高官が格下げされたり、機密解除されたりしたインテリジェンスを国際的な舞台で利用する機会を模索している。
➡ブリンケン国務長官は2022年7月、国家情報長官室(ODNI)で行なった講演のなかで、「インテリジェンスと外交の深い相乗効果」について言及した。そこで「私は、ロシアのウクライナ戦争が始まったときだけでなく、国境を越えてからも(インテリジェンス外交を)我々の思考の一部にし続けることが本当に必要だと思う」との見方を示した。
➡2023年9月、ブリンケン国務長官はポスト冷戦の秩序が終わったことから、民主主義と権威主義の戦いによって定義される戦略的競争の時代に新しく移行する際の米国の外交アプローチについて概説した。この戦略の核心は、「米国の最大の戦略的資産である同盟とパートナーシップを再参加させ、活性化し、再構築することだ」としている。
➡インテリジェンスは、こうした関係を支え、発展させる上で重要な役割を果たす。インテリジェンスを共有することによって信頼関係を築き、信頼できる情報にもとづいた共通の見解を確立し、パートナー間の協力のための新しい分野を切り開くことができる。同盟関係の強化は、米国の情報機関にとって非常に重要な資産である。バイデン政権の国家安全保障戦略と国家情報戦略は、権威主義的な大国に対する米国の戦略的競争において、インテリジェンス外交が中心的な役割を果たすことを明確にしている。
➡実際、国務省高官や外交官による機密度の格下げや機密解除の要求の多さは、この新しい現実を強調している。たとえば、2021年には機密度の格下げや機密解除の要請は900件以上あった。2023年には1100件以上、1週間に20件以上の要請になっている。
➡国務省は、ウクライナ戦争以外にもインテリジェンス外交を展開している。2023年だけでも、機密度の格下げ、あるいは機密解除された情報は、中国に対してウクライナ戦争を支援するためにロシアに殺傷力のある兵器を提供した場合の影響について警告した。最近では国務省は、米国との二国間協定に違反して中国製の軍事用品の輸入を検討していた国に対して、方向転換を促すための大きな取り組みの一環として、格下げされた情報を利用した。また、人権侵害と結びついた政府への監視技術の拡散を防ぐため、各国と連携するために格下げされた情報に大きく依存してきた。
➡インテリジェンス外交に万能のアプローチはない。米国内外のさまざまな政府機関が、それぞれの権限や目的、そして少なくとも米国において、連邦政府のガイダンスに沿ったモデルを開発し、そのもとで進められる。国務省としては、インテリジェンス外交の厳密性、規律、そして慎重さをもって、いつ、どのようにインテリジェンス外交を行なうべきかについて、最善の方法を制度化するためにいくつかのステップを踏んできた。
➡第一に、国務省職員による情報開示・公表の要請に資するための指導原則を定めた。これは7つの基本原則から構成されており、今年1月、国務省の内部方針として成文化したが、DNIが定めた既存の情報開示方針を補完するものである。
➡インテリジェンス外交は、明確な政策目的を支援し、国力の他の要素と一貫性を保ち、これを強化し、同盟とパートナーシップの強化を優先し、米国の信頼性を維持するために信頼性が高く、理想的にはマルチソースのインテリジェンスに依拠し、オープンな情報源を通じては入手できない、新しくユニークな情報の共有に努めるべきである。さらに、外交を支援するために使用されるインテリジェンスは、明確で理解しやすく、意図する読者に伝わりやすいものでなければならない。また、インテリジェンス外交の提案は、情報源や方法に対する潜在的なリスクと期待される便益を慎重に比較検討すべきである。
➡第二に、我々はテクノロジーを活用し、国務省の機密・非機密ネットワークを通じてリソースや情報共有ツールをオンラインで利用できるようにすることで、国内外の米外交官のインテリジェンス外交へのアクセスを拡大した。
➡最後に、新任の外交官や大使を対象に、インテリジェンス外交について、またその能力を世界各地にある米国の在外公館での外交活動にどのように取り組むかについて教育するための研修プログラムの開発に着手した。
➡結論としては、インテリジェンス外交は米国の外交政策を担う主要機関である国務省の使命を支え、それを可能にする上でますます欠かせないものになっている。だが、それは国家安全保障と米国の価値観に合致したかたちで活用されなければならない。ガードレールがなければ、インテリジェンス外交が誤用されたり、悪用されたりする危険性がある。
➡2022年2月に始まったウクライナ戦争で、世界がどれほど変わったか、そしてインテリジェンスと外交の関係がわずか数年の間にどれほど進化したかを思い知らされる。もはやインテリジェンスを分析資源としてのみ捉える余裕はない。むしろ、インテリジェンスは戦略的な敵国との競争の最前線において、米国の外交を可能にする重要な手段とみなされなければならない。適切な保護措置が講じられれば、インテリジェンス外交は米国の将来を守る上で重要な役割を果たすことになるのである。

日本・ウクライナ、機密情報保護協定締結に向けた交渉開始で合意

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日本とウクライナ、機密情報交換協定の交渉入り合意 シュミハリ首相は復興へ技術力に期待
 産経新聞(2024年2月19日)

➡岸田文雄首相と来日中のウクライナのシュミハリ首相は19日、「日ウクライナ経済復興推進会議」の終了後に官邸で会談した。機密情報の交換を可能にする情報保護協定の締結に向け、正式交渉を開始することで一致。同会議の成果のフォローアップのため協力していく方針も確認した。

[関連動画]

【速報】日・ウクライナ首脳 共同記者発表
 日テレNEWS(2024年2月19日)

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Section 702 surveillance could be renewed in funding bill, sources say
 Defense One, February 16, 2024

➡14日午後、米下院で争点となっている外国情報監視法(FISA)第702条の再承認について、その審議を重ねていた委員会では第702条の権限の規模や範囲に関する意見の相違を理由に法案を破棄すると脅してきた議員がいたため、審議が打ち切られた。
➡周知のように、FISA第702条は、米政府が電子メールやテキストメッセージのような外国からの通信情報を収集し、国家安全保障やテロリストの脅威に関する捜査に使用することを許可するものである。ただ、米憲法修正第4条で不法な捜査からの保護が規定されているにもかかわらず、米国の市民や居住者が通信相手だった場合でも、第702条のもとではその情報を収集することができる。このため、プライバシー擁護団体などからは、このプロセスで米国人の会話がどのように収集されるのかについて懸念の声が上がっている。
➡再承認の議論は2023年末、膠着状態に陥った。FISA第702条で認められている情報収集の権限は、議会が再承認しない限り、2024年4月19日まで延長されることになっている。
➡その後、バイデン政権と情報当局者は、FISA第702条で収集された情報が米国内でのテロ攻撃を阻止するために使用されており、大統領への日々のブリーフィングにも欠かせないものになっていると述べている。
➡米下院情報委員会は、現行のFISA第702条をほとんど改めることなく、再承認する方向で進んでいる。一方、米下院司法委員会は、権限をより短期間で更新し、米国人とのやりとりやその他の情報を含む通信データを収集する前に、まず当局に令状を求めることを義務づけるなどの制限を加える方向で議論されている。
➡情報委員会では、来月に予定されている採決にあたって、FISA第702条の全面改正に限りなく近い法案がねじ込まれるだろう。そうなると、全面改正に消極的な議員たちに対して「賛成」票を投じるか、政府閉鎖に陥らせるかの選択を迫ることになると思われる。
➡一方、司法委員会のメンバーは、令状要求の条項、ならびに、警察機関が米国人の通信データを入手するために講じる回避策を禁じる条項を認めれば、法案改正に応じる方針だった。だが、情報委員会が第702条の権限拡大を要求してきたため、協議が決裂した。
➡米下院の審議状況に詳しい人物によると、情報委員会のメンバーは、第702条の改正に消極的な議員たちを説得するために、機密資料を提示することになるだろうとの見方を示している。だが、この試みは、外国人に関連する第702条の価値を強調するだけで、米国人の通信データを収集する価値という、この審議で最大の焦点となっている問題ではないので、不誠実で誤った方向に行くかもしれないとの危惧も示している。

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The Ukraine War Runs on Prevarication
 by James W. Carden
 The American Conservative, February 17, 2024

➡ウクライナ情勢の流れがロシアに傾いていることは、もはや無視できないほど明白である。
➡今年1月末、ヴィクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)国務副長官代理とその後任、ジェームズ・オブライエン(James O’Brien)欧州・ユーラシア問題担当国務次官補が一週間違いで発表したコメントを取り上げてみたい。
➡ウクライナの首都、キエフを出発する際、ヌーランド(10年にわたる米露の代理戦争の背後にいる主要な提唱者の一人だと多くの人たちに見なされている)は、「私は今夜、団結と成果、2024年とウクライナにとっての絶対的な戦略的重要性について、より勇気づけられながらウクライナから発つ……ウクライナが防衛を強化するにつれて、プーチン氏は戦場で大きな驚きを得るだろうし、ウクライナは非常に強力な成果を収めるだろう」と語った。
➡同じ頃、ジャーマン・マーシャル財団で講演を行なったオブライエンも、ウクライナの将来について楽観的な見方を示した。彼が語ったところでは、「2024年末までにウクライナはより強くなり、その将来を決定するために、より良い立場になると思っている」という。
➡ヌーランドとオブライエンの発言は、現実、良心、そして失敗というオオカミをドアから遠ざけるために、体制側が自らに語る幸せな子守歌ようなものだ。元ウクライナ検事総長のユーリ・ルツェンコ(Yuriy Lutsenko)によれば、ウクライナはロシアとの戦争で50万人の死者を出し、「1カ月に3万人が死傷している」と語っている。
➡バイデン政権にもっとも従順な共犯者のひとりである『ニューヨーク・タイムズ』紙でさえ、ドニエプル川を渡るウクライナの「自爆作戦」を報じている。2023年12月16日付の報道によれば、「数人の兵士と海兵隊員は、犠牲者の多さと攻勢が進んでいるという米政府高官の過剰に楽観的な説明に関する懸念をジャーナリストに打ち明けている」という。
➡これらの報道は、大統領や政府高官が繰り返し主張している、ロシア軍は負けているのではなく、負けたのだという主張とは正反対である。
➡2023年7月、ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領が記者団に「彼(プーチン)がウクライナ戦争に勝つ可能性はない。彼はすでに戦争に負けている」と述べた。マーク・ミリー(Mark Milley)前統合参謀本部長は、1年前、NATOとの会合で「ロシアは負けた。戦略的、作戦的、戦術的に負けた」と述べた。同時期、CNNに出演したジェイク・サリバン(Jake Sullivan)大統領補佐官も、「ロシアはすでにこの戦争に負けた」と言い切った。
➡メディアもまた、それに乗っかろうと躍起になった。『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニスト、デーヴィッド・ブルックス(David Brooks)は、「ウクライナが勝っているのは、優れた兵力のおかげだけではない。優れた思想のために戦っているからだ」と述べた。2023年1月、『ワシントン・ポスト』紙記者のリズ・スライ(Liz Sly)は、「2023年がこのまま続けば、ウクライナは年末までにウクライナ全土を奪還するというゼレンスキー大統領の公約を果たせる可能性が高い。少なくともロシアの脅威を決定的に終わらせるのに十分な領土は確保できると、西側諸国の当局者やアナリストは述べている」と記事にした。
➡イェール大学のデーヴィッド・ブロムウィッチ(David Bromwich)教授は、次のように語っている。「公式の説明があり得ないものであればあるほど、歯止めなく繰り返され、確認され、強化されることによって、それを補強する必要がより強くなる。こうして、真実でないことの王国は、境界も抑制もなく拡大していく。公的に承認された出来事とその説明は、政府の監視によって肯定され、協力的なメディアによって民衆に流布される。それによって、真実とは無縁のコンセンサスが確立されるのだ」
➡もし私たちが戦争の進展について嘘をつかれているとしたら、そして、もしそうだとしたら、戦争に原因についても嘘をつかれている可能性が出てくるのだが、それはどうだろうか。
➡戦争の原因は、NATOの東方拡大でもマイダン以後のウクライナの民族主義的な思惑でも、ミンスク合意の履行拒否でも、2022年2月にミュンヘンで行なわれたゼレンスキー大統領の核武装の脅しでもなく、プーチンの解放主義にあると、われわれは繰り返し聞かされてきた。
➡この点は、無関係な文脈でも繰り返し述べられている。ハマス(HAMAS)がイスラエルを奇襲した2週間後にあたる10月23日の演説で、バイデン大統領は「ハマスとプーチンは異なる脅威だが、共通していることがある。それは隣接する民主主義を全滅したいと思っていることだ。そう、完全に全滅することだ」と語った。
➡ブルッキングス研究所トップのストローブ・タルボット(Strobe Talbott)は、プーチン大統領の最終目標が「自らを皇帝とするロシア帝国」を再現することだと考えている。スタンフォード大学の(Kathryn Stoner)教授は、「これはウクライナの民主主義をめぐる戦争であり、いつかNATOに加盟するのではないかというロシアの不安とは無関係だ」という意見を述べている。一方、『ニュー・リパブリック』誌の読者は、「プーチン大統領がウクライナに侵攻した理由がはっきり示されている。彼はウクライナをロシアに復帰させ、ソビエト連邦を再構築しようとしている」と考えているだろう。
➡もしわれわれが戦争の原因について嘘をつかれているなら、ウクライナ東部で何が問題になっているのかについても誤解しているのではなかろうか。おそらく誤解しているのだろう。ここでベトナム戦争時における政府の不誠実な対応と並べることは、無視できないほど明白になる。
➡最初のケースでは、冷戦のテンプレートは本質的に変わっておらず、とくにゴ・ディン・ジエム(Ngo Dinh Diem)とヴォロディミル・ゼレンスキーをウィンストン・チャーチルと比べるようなところまで同じである。つまり、南ベトナム政府(貪欲で堕落していた)は、「(国家の)未来を決定する権利」によって、米国の武器を手にする権利を有していた。ウクライナ政府(欲望にまみれ、腐敗している)も同様に、「自らの運命を切り開く」ことを許される権利があると、われわれは幾度もなく聞かされてきた。
➡ロシアのウクライナ侵攻によって、ベトナム戦争後、長い間、揶揄されてきたドミノ理論が復活した。バイデン大統領は昨年12月6日、「もしプーチンがウクライナを占領すれば、そこで止まることはないだろう。長い目で見ることが大切だ。彼は続けるだろう……。そうなれば、われわれが求めていないもの、われわれが現在、手にしていないものを手にすることになる。それは、米軍がロシア軍と戦うということだ」。
➡これは、1965年7月のリンドン・ジョンソン(Lyndon Johnson)大統領の発言とそっくりである。ジョンソン大統領は当時、次のように語った。「これはまさに戦争である。北ベトナムが主導し、共産中国が拍車をかけている。その目標は南ベトナムを征服し、米国の力を打ち砕き、共産主義のアジア支配を拡大することである。このバランスには大きな賭けがある。アジアの非共産主義国の大半は、アジアの共産主義の強大化とどん欲な野心に単独で抵抗することはできない」。
➡1971年、ペンタゴン・ペーパーズが公表されたとき、哲学者のハンナ・アーレント(Hannah Arendt)は、ベトナム時代に「嘘の政策は敵に向けられたことはほとんどなく……国内消費、国内でのプロパガンダ、とくに議会を欺くためのものだった」と述べた。ウクライナ戦争が始まって2年、われわれはバイデン政権とメディアによって戦争の原因、その利害関係、そしてその進捗状況について、さんざん嘘をつかれてきた。現在、進行中である海外での米国の災難の余波のなかで取り上げられるべき、そしてもちろん、取り上げられないであろう疑問は、「われわれは学ぶことができるのだろうか」ということである。

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