武田知弘_戦前の生活











 近頃、戦前の庶民生活や社会風俗について取り上げたものをよく見かけますね。今の時代、それほど戦前に興味を持つ人がたくさんいるとは思えないのだけれど、おそらくNHKの朝ドラなんかでやたらと戦前・戦中の日本を舞台にするものだから、あの時代の人たちはどんなふうに生活していたのかしらと疑問に思う人がいるのかもしれない。

 あるいは、戦前といえば特高警察が庶民に対して政治的な弾圧を加える暗黒時代であるかのように描かれることが多いんですね。しかし、実際はそうではなく、娯楽もあればスキャンダルもある、決して大らかさを失っていた時代ではないことを確かめるにはちょうどいい歴史的な素材を提供してくれるのかもしれません。

 この本の内容もそうなんですけど、今も昔も人間の良しあしなんて、それほど大して変わるものじゃない。下らない人はいつの時代にもいたし、下らないことで人びとは日々の生活を面白おかしく過ごしたり、それを見聞きして驚いて見せたりしていたわけです。

 今だってそうかもしれませんよ。科学技術が進歩したとしても、人間そのものが進歩したかどうかは分からない。せいぜい変わったのは平均寿命くらいなもので、テレビをつければ、相変わらず不倫だ、汚職だと、大騒ぎしているんですからね。居丈高に「戦前は遅れていた」とか「戦中はひどかった」とか言えるものではありません。