中沢彰吾_中高年ブラック派遣















 この本に書かれている内容が本当だとしたら、これは相当、キツいと言わざるを得ません。人材派遣会社に登録し、派遣先の職場で働くまではいいんですけど、その職場で受ける不当で理不尽な待遇の数々、「労働者の経験やスキル、人間性、人権をも無視した奴隷に近い労働形態が横行している」(p.7)と、著者が訴えるのは当然だろうと思います。

 それでも著者は一応、東大に入るだけの頭脳があって、法律もそれなりに理解できるから会社側と戦うことができますけど、実際問題、そうじゃない人たちの方が多いわけです。職場で不平や不満があったとしても、それをどうやって訴えたらいいか分からない。あるいは、勢い訴えたとしても、うまく丸め込まれて結局、その状況に甘んじることになる。しかも、おいそれと辞めて、別の仕事に変わることもできない。早い話、泣き寝入りです。

 しかし、こういう実態があることは、本当はみんな、知っていたんじゃないんですか? 今まで物言えぬ、あるいは声届かぬ人たちがそういう仕事に就いていて、不平や不満を抱えていても社会問題にならなかった。いや、本当は心ある人たちがその声をすくって惨状を訴えていたけど、「所詮、あいつらは落伍者だから」といってまともに取り合ってこなかったんじゃないんですか?

 近年、そういう職場にもリストラやら就職難やらで、以前なら一流企業の正社員として働いていたであろう人材が流れてくるようになった。そして、いざ働いてみると、何という職場だ、信じられない、どうしてこんなことがまかり通っているんだと憤りを感じる。著者の場合、たまたま物言える能力があって、新書というかたちでその惨状を世に訴えることができました。しかしその状況は、労働基準法の改正や労働者派遣法の制定が行なわれる前からずっとあっただろうし、これからもきっとあるだろうと思うわけです。

 戦うためには、労働関係の法令に詳しくなることが必須です。もともと派遣労働者は不安定なポジションなんですから、自分の身は自分で守るくらいでなければ、トラブルが発生したときに対処できません(もちろん、時宜を見て労働局や弁護士に相談することも大切でしょう)。また、派遣労働者の弱みとして団体交渉が難しいという点があるので、その辺も今後、労働者保護という観点からどのように制度設計すればいいのか、真剣に検討することが必要かもしれませんね。

 今や労働者の4割近くが非正規雇用という時代ですし、その傾向は今後も変わらないでしょう。そういうなか、単なる雇用の調整弁として扱われたくないなら、労働者みずから知恵をつけて戦うしかありません。愚痴をこぼすだけでは何も変わりませんからね。