田淵俊彦_発達障害と少年犯罪
















 タイトルが「発達障害と少年犯罪」なので、読者の一部から偏見や差別を助長するとして批判が出ているようですけど、少なくとも一読して受けた印象では、そういう批判は必ずしも当たらないのではないかと思いますね。

 たしかに発達障害を少年犯罪と直接、リンクさせることは好ましくありません。しかし、昨今の猟奇的な殺人事件で犯人となった人物に見られる傾向として、自閉症スペクトラム障害の特徴が現れていたことは否定できない事実です。また、その特徴が現れている子供たちに「個性」という言葉を使って放置し、彼らに合わせた教育や訓練を施さないことは、彼らの未来を奪っているも同然と言えます。大切なのは実態の把握であり、その認識の共有によって改善への可能性を探ることでしょう。

 医学的な見地からは、発達障害の原因として脳機能の障害、とくに海馬や偏桃体などの異常によって引き起こされるという理解が定着しつつあるようです。しかし、脳機能の障害を生む要因はさまざまで、先天的な染色体異常だけでなく、生活環境のストレスや心理的なトラウマ、何らかの物理的衝撃など、後天的な要因も含まれます。どれかひとつに原因を特定することは難しく、おそらくそのいずれもが関連し、モザイク的なバランスになっていることで症状の多様性が生まれているのかもしれません。

 ただ、教育的な見地から興味深いのは、発達障害と診断された少年犯罪者へのインタビューから、彼らの多くが幼少期に何らかの虐待を受けており、克服しがたいトラウマを抱えていたということです。ひとくちに虐待といっても、肉体的な虐待だけではありません。親からの執拗かつ過度な圧迫や自分の面前で両親が殴り合いのケンカを繰り広げるなど、過度なストレスを受ける心理的な虐待も見られます。すなわち、意図して大雑把に言ってしまえば、きちんと愛情をもって育てられていないという状況が浮かび上がってくるわけです。

 教育や医療の現場でこうした問題に取り組んでいる人たちはそのことに気づいていて、先天的な要因はあるにせよ、プラス・アルファの部分、つまり後天的な要因を解消しつつ、課題を通じて達成感を与えることで自尊心を芽生えさせ、犯罪に走らないように生きる意味と価値を理解してもらおうと苦心している様子も、この本では描かれています。

 しかし、教育・医療関係者がどれほど頑張ったとしても、親の代わりになれるわけではありません。そこでやはり発達障害の子供の親が重要になるわけですが、実際のところ、自分の子供が発達障害であることを認めようとせず、しかるべき教育や訓練を受けさせる機会を子供に与えなかったり、そういう教育や訓練を勧める教師・医師に対して敵意をあらわにしたりするなど、子供だけでなく親の方にも問題があるケースが少なくないようです。その点でも、子供のためを思って、子供の目線に立って判断・行動しない親の愛情不足を感じますね。